微量でも、サルは子宮内膜症にかかるということです。
もうひとつ驚くことがありました。 これまではさまざまな動物実験から、人間は体重一gあたり一日に一○○○g以上のダイオキシンを摂取すると、具体的な症状があらわれると推定されていました。

ところが第二グループのサルに与えられたダイオキシンの総量などから判断すると、体重一gあたり一日に二一六gという微量でも、子宮内膜症があらわれるという計算になったのです。 もちろんそれだけのダイオキシンをとったら、すべての女性が子宮内膜症を起こすという意味ではありません。
しかしこの計算からいうと、子宮はほかの器官や組織に比べて、ダイオキシン類に対してはるかに敏感に反応するのではないかと推論できます。 しかし先に述べたように、厚生省は、この実験結果だけでは結論を出すことは難しいと判断したのです。
そうなると体重一gあたり一日の摂取量が一○○○g以内であれば安全ということになり、安全率を一○○として耐容一日摂取量を一○gとしたのです。 一方の環境庁は、一二六gでも子宮内膜症が発症する可能性を受けとめつつも、追試的データがないため、ネズミによる実験を考慮して安全率を大きくしたのです。
アメリカは他国とは桁のちがう数字を提案しています。 アメリカはダイオキシン類による発ガン性の危険性を重視したからです。
ダイオキシン類の研究が進むにつれて、当初考えていたよりも発ガン性のリスクが高いことがわかってきました。 日々の摂取量は微量でも、蓄積するとガンを引き起こす可能性が上昇します。

その評価がWHOの評価変更にもひき継がれたのでしょう。 子宮内膜症は年々増加している子宮内膜症は別名「子宮内膜増殖症」ともいいますが、その言葉どおり、子宮の内膜もしくはそれに似た細胞組織が、子宮以外のところで増殖する病気のことです。
この細胞は子宮内膜と同じ性質を持っているため、毎月増殖し、月経時に剥離して出血します。 ガンのような悪性の病気ではないものの、女性をとても苦しめるようです。
激しい月経痛や性交痛を起こしたり、不妊症、続発性過多月経などという症状を呈します。 しかし何といっても恐いのは合併症です。
不妊症、卵巣チョコレート雲腫、骨盤内癒着などの大きな要因となっています。 症状が複雑なため、診断が難しいという医者泣かせの病気ですが、たとえ運よく見つかっても、あとが大変です。
薬物療法や手術療法を施しても、かなりの確率で一年以内に再発します。 薬物治療の副作用が強く、薬を長期にわたって使用すると、その害が将来におよぶ可能性があります。
このやっかいな病気が年々増えているのです。 アメリカでは子どもを産む能力のある女性の一○人に一人がこの病気にかかっているといわれています。
また原因不明の不妊症のうち、三三・三%にこの子宮内膜症が確認きれたという報告もあります(ミシガン大学)。 日本では正確なデータはないものの、一○○万人以上の女性がこの病気で苦しんでいると推測されています。
大阪医大のグループ調査では、「この五年間で開腹手術を行なった女性のニニ・ニ%にその兆候が確認された」といいますから、深く静かに潜行していると思われます。 ちなみに開腹手術をして子宮内膜症が見つかる確率は、一九六○年代では一桁程度の比率でした。
それが七○年代には一○%台、八○年代には二○%台に突入しています。 この数字を見ると、奇妙にダイオキシン類による汚染とシンクロしているように思われます。

アカゲザルによる実験報告も考え合わせると、子宮内膜症の原因のひとつとして、ダイオキシン類が浮かび上がってきます。 さらにダイオキシン類は、女性の生殖機能だけでなく、男性の生殖機能にも大きなダメージを与えることが、各種の研究から明らかにされています。
たとえば妊娠中のネズミにダイオキシンを投与して、胎児の生殖機能にどのような変化が起きるかを調べる実験が行なわれました。 その結果、生まれてきたオスの生殖器の重量が総じて小さく、精子の量も少なく、オスなのにメスのような性行動をするネズミがあらわれます。
それも排卵ができなくて不妊になるのではなく、子宮内膜症になったために、排卵はするものの妊娠できないという女性が増えています。 その原因のひとつがダイオキシン類ではないかと、私たちは考えているのです。
子宮内膜症がダイオキシン類と無縁であるとは思えなくなります。 子宮内膜症は卵巣ホルモンの増加で進行することがわかっていますが、ダイオキシンもホルモン様の作用をするために、そのような症状が起きると推察できます。
具体的なデータを示すことはできませんが、最近、不妊症が増えているのも、その証左ではないでしょうか。 ダイオキシン類は生殖機能に大きなダメージを与えるまた台湾の研究者らは、一九七九年に台湾で起きた「ライス油事件」の追跡調査から、人間の発育機能に大きな影響をおよぼすことを確認しています。
これは台湾版の「カネミ油症事件」といわれているものです。 被害者から生まれた子どもを調査したところ、鼓膜異常や発育障害の発生率が高く、身長や体重は平均より下まわり、陰毛の発育や初潮が遅く、ペニスも小さいことがわかったのです。
これらの事実から、最近、世界的に問題になっている精子の数の減少も、ダイオキシンのせいではないかと類推する研究者もいます。 これについては、牽強付会の推論にすぎないと一笑に付す研究者もいますが、かつての男性の精液には、一億個もの精子がいたのに対し、いまではおよそ六○○○万個にまで減少しているといわれています。
これもダイオキシン類による生殖抑制作用の一つではないかと考える学者の指摘を無視することはできません。 もちろんダイオキシン類だけが、そうした現象を引き起こしているとはいいきれません。
しかし有機塩素系の殺虫剤が動物の精子を減少させているという研究や、ネズミの実験などを考え合わせると、ダイオキシン類が無関係であるとは思えないのです。 ダイオキシン類は免疫機能に異常を引き起こす台湾の「ライス油事件」による被害者の子どもたちを追跡調査した結果、ダイオキシン類が子どもたちの免疫機能に大きな影響をおよぼすことが明らかになってきました。

また油症患者の死亡原因に呼吸器疾患が多いことから、ダイオキシン類には免疫を抑制する作用があることが示唆されています。 さらにプロローグで見た厚生省の調査報告などから、アトピー性皮層炎にもダイオキシン類が関与しているのではないかと考えられます。
母親に蓄積したダイオキシン類が、胎盤を介して赤ちゃんに移行し、母乳が追い打ちをかけるという構図です。 六%以上の子どもたちが、生まれてくる前にすでにアトピー性皮膚炎になっていることがわかります。
母乳を与えると発症率が上がり、母乳に比べてダイオキシンの含有量が数十分の一程度の人工乳を与えると、発症率は下がっていきます。 もしダイオキシン類が原因でないとしても、これは異常なことです。

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